京の色

春はあけぼの。やうやうしろくなり行く、山ぎわすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。

清少納言の枕草子の一節は京都比叡山から明ける夜明け前を実に微妙に捉えている、夜明けではなく、闇でもなく、暁でもない、比叡の秀峰にかかる雲のむらさきに感動している、千年を過ぎた今日のあけぼのも、やはりむらさきであった。

夏はよる、秋は夕暮れ、冬はつとめて、と枕草子はつづられていく、めぐりくる季節に感動し感謝している、いにしえの偉人の思いがつたわって、その色へこころがうれしい。

色は人の心を動かす。真っ赤な椿で出始まったわが庭も、薄紅の桜で明るくなり、純白の木蓮、紫の山ツツジ、黄色の水仙も庭の隅に可愛いく、冷たい冬の風に耐えて春風とともに、それぞれ自分達の色の饗宴である。この素晴らしい彩りに感動し、ひと時 生きる痛みを忘れ、授かった命を、大自然に深い感謝である。
色は人の心を癒し、幸福の感動を惜しみなく与えてくれる、病おも治す、争いも忘れさせる、色のない世界は考えられない。

花が散ると、みどりが一度に迫り来る、手前の若葉は柔らかく、目線のみどりは黄色い、山々はもくもくと若芽みどり、峰はむらさきにかすみ、晴天の空は白い。 

そうして、そんなに時間をかけず新緑は濃緑とし 初夏に入って行く、みどりといっても万色、薄みどり、濃いみどり、黄緑、青みどり、自然は偉大な染師であり、詩人でもある。

ほたるの盛夏 から 紅葉の中秋へ 雪の嵯峨野、と めぐり行く京都の四季。

深い歴史に基ずく、古都京都の色は130万人の市民をはぐくみ、5000万人の入洛する客人に、季節の風をつたえ感動させている。四季のいろ、生活のいろ、行事の色、歴史の色、山紫水明京都の色彩を、よろこびのままに、伝えて行こうとおもっている。